遺伝子組み換え食品を選ばないという選択:その不安と科学的な見方
「遺伝子組み換えでない」を選びたい気持ち、その背景には何がある?
スーパーで食品を選ぶ際、「遺伝子組み換えでない」という表示を探す方は少なくないでしょう。遺伝子組み換え作物や食品に対して、漠然とした不安を感じているという声を耳にすることもあります。
食卓に並ぶものが、自分や家族の健康にどのように影響するのか、気になるのは自然なことです。特に、新しい技術で作られた食品については、「本当に安全なの?」という疑問が湧くかもしれません。
この記事では、「遺伝子組み換えでない」という選択をしたいと感じる背景にある不安に寄り添いつつ、遺伝子組み換え作物の安全性に関する科学的な考え方や、日本の表示制度について冷静にお伝えします。どのような情報に基づいて判断すれば良いのか、一緒に考えてみましょう。
なぜ不安を感じやすいの? 遺伝子組み換えへの素朴な疑問
遺伝子組み換え作物について不安を感じる理由として、以下のような点が挙げられるかもしれません。
- 「新しい」技術であることへの抵抗感: 長い食の歴史の中で、遺伝子組み換えは比較的新しい技術です。未知のものに対して慎重になるのは人の心理として当然です。
- 「遺伝子」を操作することへの難しさや怖さ: 遺伝子と聞くと、体の設計図のようなイメージがあり、「操作する」という言葉に抵抗を感じるかもしれません。
- 安全性に関する情報が氾濫していること: インターネットやSNSでは様々な情報が飛び交っており、何が正しくて何がそうでないのか判断が難しく、かえって不安が増すことがあります。
- 表示を見ても完全に理解できないこと: 日本の遺伝子組み換え表示制度は少し複雑で、表示があるもの、ないもの、義務があるもの、ないものがあり、「結局どうなの?」と疑問が残ることがあります。
これらの不安は、遺伝子組み換え技術や制度について十分な情報が得られなかったり、複雑な情報を理解するのが難しかったりすることから生じやすいものです。
科学的な見方:遺伝子組み換え作物の安全性はどのように評価されているか
遺伝子組み換え作物の安全性については、世界中で多くの研究が行われ、厳格な審査を経て流通しています。
日本においては、厚生労働省と食品安全委員会が中心となり、食品としての安全性を詳しく審査しています。この審査では、アレルギーを引き起こす可能性はないか、毒性はないか、栄養価は既存の作物と比べて大きく変わらないか、などを科学的なデータに基づいて多角的に評価します。
具体的には、開発された遺伝子組み換え作物が持つ新しい性質(例えば、特定の害虫に強くなったなど)が、私たちの体に悪影響を与えないか、詳しく調べられます。この評価は、数世代にわたる動物実験や成分分析など、様々な手法を用いて非常に慎重に行われます。
これらの厳格な審査を経て「安全である」と判断された遺伝子組み換え作物だけが、日本国内での食品としての利用を認められています。国際的にも、多くの科学機関や専門家が、現在流通している遺伝子組み換え作物については、適切に評価されたものに限り、従来の作物と同等に安全であるという見解を示しています。
もちろん、新しい技術であるため、長期的な影響に関する継続的な研究や監視は非常に重要です。科学の世界では、常に新しい知見が積み重ねられており、その都度評価が見直されています。
表示制度の「遺伝子組み換えでない」だけでは分からないこと
日本の遺伝子組み換え食品表示制度では、特定の遺伝子組み換え農産物(大豆、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、アルファルファ、テンサイ、バレイショ)と、それらを主な原材料とする加工食品に表示義務があります。
「遺伝子組み換えでない」と表示されている場合、その農産物や加工食品には、遺伝子組み換え体や、遺伝子組み換え体が一定の基準(現在5%)を超えて混入していないことを意味します。
しかし、この表示だけでは全てを判断することはできません。
- 表示義務のない食品がある: 醤油や食用油など、遺伝子組み換え作物を原材料としていても、製造過程で組み換えられたDNAやタンパク質が分解・除去されてしまう食品は、表示義務の対象外となっています。これらは「遺伝子組み換えでない」という表示もできません。
- 表示の基準: 「遺伝子組み換えでない」と表示されていても、意図せず混入した場合の基準値(5%)が存在します。完全にゼロという意味ではありません。
- 畜産物への影響: 家畜の飼料として遺伝子組み換え作物が使われることがありますが、家畜の肉や牛乳自体には組み換えられたDNAやタンパク質は残らないとされており、これらには表示義務もありません。
つまり、「遺伝子組み換えでない」という表示は一つの情報に過ぎず、その食品がどのように作られ、どのような安全性の評価を受けているのかは、表示だけでは分からない部分が多いのです。
賢い選択のために:不安とどう向き合うか
遺伝子組み換え食品に対して不安を感じることは自然な感情ですが、その不安にどう向き合うかが重要です。漠然とした不安に振り回されるのではなく、以下の点を踏まえて冷静に考えてみましょう。
- 科学的な根拠に基づいた情報を知る: 国の審査の仕組みや、国際的な専門機関の見解など、信頼できる情報源から科学的な安全性評価について学びましょう。現在流通している遺伝子組み換え作物は、厳しい審査をクリアしていることを理解することが、不安の軽減につながります。
- 表示制度を正しく理解する: 「遺伝子組み換えでない」という表示が何を意味し、何を示していないのかを知ることで、表示に対する過度な期待や誤解を避けることができます。
- 食全体のバランスを考える: 遺伝子組み換え作物以外にも、食品の安全性に関わる様々な要素があります。農薬の使用、添加物、栄養バランスなど、食卓全体の安心を考える際に、遺伝子組み換えだけを特別視しすぎる必要はないかもしれません。
- 自分にとって大切な基準を考える: 食品を選ぶ際に、安全性はもちろん、価格、環境への影響、生産者の考え方など、何を重視するかは人それぞれです。遺伝子組み換え技術が食料生産にもたらす可能性(例えば、少ない農薬で育てられたり、栄養価が高められたりするもの)にも目を向けることで、より多角的な視点を持つことができます。
「遺伝子組み換えでない」を選ぶという個人の選択は尊重されるべきです。しかし、その選択が漠然とした不安から来るものなのか、それとも科学的な情報や制度を理解した上での合理的な判断なのかによって、その意味合いは変わってきます。
まとめ:情報に基づいて、自分にとって納得できる選択を
遺伝子組み換え食品を選ばないという選択は、消費者一人ひとりが持つ自由な権利です。大切なのは、その選択が根拠のない不安に基づいたものではなく、科学的な安全性評価や日本の表示制度について正しく理解した上で行われていることです。
「GMOフロンティア」では、遺伝子組み換え作物の賛否、可能性、課題について、様々な角度から情報を提供しています。この記事を通じて、遺伝子組み換え食品に対する見方が少しでも明確になり、食卓の安心のために、どのような情報に目を向ければ良いかのヒントになれば幸いです。
どのような食品を選ぶにしても、信頼できる情報に基づいて、ご自身とご家族にとって納得できる選択をしていただけることを願っています。