表示義務がない遺伝子組み換え食品とは?醤油や油はどう判断する?
表示義務がない遺伝子組み換え食品、どう見分ける?
スーパーで食品を選ぶ際、遺伝子組み換え表示を気にかけている方もいらっしゃるかと思います。食品の裏側を見て、「遺伝子組み換えでない」という表示があれば安心、と感じるかもしれません。しかし、日本の遺伝子組み換え表示制度では、実は全ての遺伝子組み換え食品に表示義務があるわけではありません。
今回は、表示義務がない遺伝子組み換え食品にはどのようなものがあるのか、なぜ表示義務がないのか、そして特に多くの方が疑問に思われることのある醤油や食用油について、科学的な知見に基づいた国の考え方や、消費者がどのように判断すればよいのかを分かりやすく解説いたします。
なぜ表示義務がない遺伝子組み換え食品が存在するのか?
日本の食品表示基準では、遺伝子組み換え農産物やそれらを原材料とする加工食品について、一定のルールに基づいて表示が義務付けられています。しかし、表示義務の対象となるのは、「遺伝子組み換えられたDNA」や「そのDNAから作られたタンパク質」が、検査によって検出できる製品に限られています。
これは、食品の製造・加工の過程で、遺伝子組み換えられたDNAやタンパク質が完全に分解されてしまい、最終的な製品には検出されなくなる場合があるためです。科学的に見ると、遺伝子やタンパク質が残っていない食品は、元の遺伝子組み換え農産物とは性質が異なると考えられています。国の安全評価においても、DNAやタンパク質が分解・消失していることが確認されている場合、改めて食品としての安全性を評価する必要はないと判断されていることが、表示義務がない理由の一つです。
表示義務がない食品の主な例
表示義務がない遺伝子組み換え食品には、主に以下のようなものが挙げられます。
- 食用油(大豆油、なたね油、とうもろこし油など)
- 醤油
- 異性化糖(ブドウ糖果糖液糖など)
- デキストリン、水あめ
これらの食品は、遺伝子組み換えされた大豆やとうもろこしなどを原料として使用している場合でも、高度な精製や発酵、分解といった製造工程を経ており、最終製品には遺伝子組み換えられたDNAやタンパク質がほとんど、あるいは全く残らないため、表示義務の対象外とされています。
特に気になる!醤油と食用油のケース
多くの方が日常的に使用する食用油や醤油について、もう少し詳しく見てみましょう。
食用油の場合
大豆油、なたね油(キャノーラ油)、とうもろこし油などの原料には、遺伝子組み換えされた作物が広く流通しています。しかし、これらの油は、原料から油を抽出する過程で加熱や精製といった処理が繰り返し行われます。この厳しい処理によって、遺伝子組み換えられたDNAやタンパク質は変性したり分解されたりするため、最終的な油の製品からは検出されません。このため、表示義務がないのです。
もし「遺伝子組み換えでない」という表示がある食用油を選びたい場合は、製造メーカーが自主的に非遺伝子組み換え原料を使っていることを確認し、その旨を表示している製品を選ぶことになります。
醤油の場合
醤油の主原料は、大豆、小麦、食塩、そして麹菌です。醤油の製造過程では、発酵という微生物(麹菌や酵母菌など)の働きを利用した複雑なプロセスを経ます。この発酵と熟成の過程で、原料である大豆や小麦に含まれる遺伝子組み換えられたDNAやタンパク質は、微生物や酵素によって分解されてしまいます。最終的な醤油の製品からは、遺伝子組み換えに由来する成分は検出されないと考えられているため、表示義務はありません。
ただし、食用油と同様に、メーカーが「遺伝子組み換えでない大豆を使用」などと自主的に表示している製品もあります。これは、使用した原料について消費者に情報提供する目的で行われています。
消費者が知っておくべきことと判断のポイント
表示義務がない食品があることを知ると、かえって不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここで大切なのは、表示義務がないことと「安全ではない」ということはイコールではない、ということです。
- 安全性の確認: 日本国内で流通・販売される遺伝子組み換え農産物やそれらを原料とする食品は、食品安全委員会による厳しい安全評価を経て、厚生労働省が安全性を確認したものだけです。表示義務がない食品も、この安全評価の枠組みの中で安全性が確認されています。
- 表示制度の目的: 遺伝子組み換え表示制度は、消費者が食品を選択する際の参考となる情報を提供する目的で設けられています。表示義務の対象となるのは、遺伝子組み換え成分が最終製品に残っており、検査で検出できるものです。
- 「遺伝子組み換えでない」表示: 表示義務がない食品でも、「遺伝子組み換えでない」と任意表示されているものがあります。これは、意図せぬ混入が5%以下である場合に表示できるものです。完全にゼロであることを保証するものではありませんが、非遺伝子組み換え原料を使用しているという情報を提供しています。
これらの点を踏まえ、どのように食品を選ぶかは個人の価値観によります。科学的な安全性に基づいて選ぶならば、表示がない食品でも国の基準をクリアしていると考えることができます。一方、原料の由来にこだわりたい、可能な限り非遺伝子組み換えのものを選びたいという場合は、「遺伝子組み換えでない」と表示された商品を選択したり、有機JASマークが付いた商品を選ぶことも一つの方法です。(有機食品は、遺伝子組み換え技術や放射線照射技術を使用しないことなどが基準に含まれています。)
まとめ
遺伝子組み換え表示制度は複雑に感じられることがありますが、その仕組みを理解することは、食卓の食品について冷静に判断するために役立ちます。食用油や醤油など、一部の加工食品に遺伝子組み換え表示がないのは、製造過程で遺伝子組み換えに由来するDNAやタンパク質が分解され、最終製品には検出されないためであり、国の安全基準に基づいた判断です。
表示がないからといって直ちに危険というわけではありません。科学的な根拠と表示制度の目的を知ることで、不安を軽減し、ご自身の価値観に合った食品を選択できるようになるでしょう。
GMOフロンティアでは、これからも遺伝子組み換え作物に関する様々な情報について、多角的な視点から分かりやすくお伝えしてまいります。