食卓の「当たり前」を知る:長年の品種改良と遺伝子組み換え技術の根本的な違い
はじめに
私たちの食卓に並ぶ様々な野菜や果物、穀物は、長い歴史の中で改良が重ねられてきました。より美味しく、たくさん収穫でき、病気や害虫に強い作物を作るために、様々な技術が使われています。
その中でも、「品種改良」と「遺伝子組み換え」は、どちらも作物の性質を変える技術ですが、そのアプローチや仕組みには大きな違いがあります。遺伝子組み換え作物に対して漠然とした不安をお持ちの方の中には、「品種改良とは何が違うの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、食卓に長く関わってきた「品種改良」と、比較的新しい「遺伝子組み換え」技術の根本的な違いについて、分かりやすく解説していきます。
長い歴史を持つ「品種改良(育種)」とは
まず、私たちが昔から行ってきた「品種改良」について見ていきましょう。品種改良は「育種(いくしゅ)」とも呼ばれます。
これは、良い特性を持つ植物を選び、それらをかけ合わせる(交配する)ことで、狙った新しい特性を持つ品種を作り出す技術です。例えば、甘くて病気に強いイチゴの品種を作りたいと考えた場合、甘さが特徴のイチゴと病気に強いイチゴをかけ合わせ、その中から最も良い特性を持つ株を選び出し、さらにかけ合わせることを繰り返します。
この技術の大きな特徴は、自然界で起こりうる、あるいは自然界の仕組みを利用した遺伝子の組み合わせの変化を利用している点です。親から子へ遺伝子が受け継がれる過程での偶然や、人間が意図的に異なる親を選んで交配させることで、新しい組み合わせを生み出します。
しかし、この方法は非常に時間と手間がかかります。狙った特性が現れるまでには、何年も、時には何十年もの年月が必要となることもあります。また、交配によって遺伝子全体が混ざり合うため、狙った特性だけでなく、意図しない特性も一緒に受け継がれる可能性があります。
品種改良は、米や野菜、果物など、私たちが現在食べているほとんどの作物に対して、古くから行われてきた技術です。
狙った遺伝子を変える「遺伝子組み換え技術」とは
一方、「遺伝子組み換え技術」は、1970年代以降に発展した比較的新しい技術です。
この技術は、特定の生物から取り出した、狙った性質を持つ遺伝子を、別の生物の遺伝子に組み込むことで、新しい性質を持つ生物を作り出すものです。例えば、特定の病気に強い性質を持つ遺伝子を他の植物から取り出し、それをある作物に組み込むことで、その作物も病気に強くする、といったことが可能になります。
品種改良が遺伝子全体を扱うのに対し、遺伝子組み換え技術は、特定の機能を持つごく少数の遺伝子だけをピンポイントで操作できることが大きな特徴です。これにより、育種では難しかったような、全く異なる種類の生物が持つ遺伝子を導入することも可能になります。
また、品種改良に比べて、比較的短期間で目的の特性を持った作物を作り出せる可能性があります。
「品種改良」と「遺伝子組み換え」の根本的な違い
両者の違いをまとめると、以下のようになります。
- 方法:
- 品種改良: 自然界の仕組み(交配など)を利用して、遺伝子の組み合わせを変化させる。
- 遺伝子組み換え: 科学的な技術を用いて、特定の遺伝子を取り出し、別の生物の遺伝子に直接組み込む。
- 対象:
- 品種改良: 親から子へ受け継がれる遺伝子全体を扱う。
- 遺伝子組み換え: 狙った特定の機能を持つ遺伝子だけを操作する。
- 遺伝子の移動:
- 品種改良: 原則として、同じ種類や近縁種の間での交配に限られる。
- 遺伝子組み換え: 種の壁を越えて、異なる種類の生物間での遺伝子の移動も可能。
- 時間:
- 品種改良: 長い年月がかかることが多い。
- 遺伝子組み換え: 比較的短期間で開発が進む可能性がある。
このように、品種改良と遺伝子組み換えは、どちらも作物の遺伝的な性質を変える技術ですが、その手法やアプローチが根本的に異なります。特に、遺伝子組み換え技術が「種の壁を越えた遺伝子の導入も可能」であるという点は、従来の品種改良とは大きく違う点であり、これが遺伝子組み換え作物に対する様々な議論の一つにもなっています。
どちらも「安全性の評価」が重要
品種改良された作物も、遺伝子組み換え作物も、私たちの食卓に並ぶ前には、それぞれの方法で作られたことによる特性について、安全性が評価されています。
特に遺伝子組み換え作物については、新しい技術であること、そして特定の遺伝子操作を行うことから、食品としての安全性や環境への影響について、開発国の政府や国際機関などにより、厳しい審査や評価が行われています。日本でも、食品安全委員会や環境省などで安全性評価が行われ、承認されたものだけが国内での流通や栽培が認められています。
「自然なもの」と感じられる品種改良と、技術によって作られた遺伝子組み換え作物。感じ方には違いがあるかもしれませんが、どちらの技術によって生まれた作物も、私たちの食料を安定的に供給するために、様々な特性を持つ品種を生み出すことを目指しています。
まとめ
品種改良と遺伝子組み換え技術は、作物の性質を改善するという目的は共通していますが、その手法や仕組みには明確な違いがあります。品種改良が長い歴史の中で自然界の仕組みを利用してきたのに対し、遺伝子組み換え技術は特定の遺伝子をピンポイントで操作する、比較的新しい技術です。
これらの技術によって生まれた作物について、それぞれの特徴や開発の背景を理解することは、私たちの食卓への理解を深めることに繋がります。そして、遺伝子組み換え作物については、その安全性について科学的な根拠に基づいた情報に触れることが、漠然とした不安を解消するための一歩となるでしょう。
「GMOフロンティア」では、今後も遺伝子組み換え作物に関する様々な情報を、多角的な視点から分かりやすくお伝えしてまいります。