安心のしくみを知る:遺伝子組み換え作物が食卓に届くまでの国の審査とは
はじめに:私たちの食卓と遺伝子組み換え作物
スーパーの棚に並ぶ食品や、外食で口にするメニュー。私たちは日々様々な食品を選んでいますが、「遺伝子組み換え作物」について、漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。「安全性は大丈夫なの?」「誰がチェックしているの?」といった疑問をお持ちになるのは自然なことです。
遺伝子組み換え作物は世界中で広く利用されていますが、日本では食品として、あるいは飼料として利用される前に、国による厳しいチェックを受けています。この記事では、遺伝子組み換え作物が日本国内で流通し、私たちの食卓に届くまでに、どのような国の審査や承認プロセスを経ているのかを分かりやすく解説します。この「安心のしくみ」を知ることで、遺伝子組み換え作物に対する理解を深め、日々の食品選びの一助としていただければ幸いです。
なぜ国の承認制度が必要なのか?
遺伝子組み換え作物は、従来の品種改良では難しかった新しい特性(例:害虫に強い、特定の除草剤に耐性がある)を持つように開発されたものです。そのため、食品として食べたときに私たちの健康に影響はないか、また、栽培された場合に周りの環境に悪影響を与えないかなど、新しい視点での評価が必要になります。
そこで日本では、人の健康や環境の安全を守るために、遺伝子組み換え作物を輸入・流通・利用する前に、国の定めた基準に基づいた審査を受け、安全性が確認されなければならないという制度が設けられています。これは、科学的な根拠に基づき、安全性を客観的に評価するための重要なプロセスです。
遺伝子組み換え作物が承認されるまでの流れ
遺伝子組み換え作物が日本国内で利用されるまでには、主に以下の2つの観点からの審査が必要です。
- 食品としての安全性審査
- 環境への影響評価(輸入・流通のみの場合は不要、栽培する場合に必要)
これらの審査は、それぞれ専門の機関によって行われます。
1. 食品としての安全性審査
この審査は、厚生労働省が所管し、内閣府にある食品安全委員会が科学的なリスク評価を行います。遺伝子組み換え食品の開発者は、その食品が人の健康に悪影響を与えないことを示すために、様々なデータを提出します。提出される主なデータには、以下のようなものがあります。
- 開発の経緯: どのような目的で、どのように開発されたか。
- 遺伝子の情報: 組み込まれた遺伝子が何か、それがどのように働くか。
- 含まれる成分: 栄養成分や、アレルギーを引き起こす可能性のある物質、毒性のある物質などが含まれていないか。
- 動物を使った試験結果: 食品を食べた動物に健康上の問題が起きないか。
食品安全委員会は、提出されたこれらの科学的なデータを詳細に検証し、専門家の知見に基づいて安全性を評価します。この評価結果は広く一般にも公表され、国民からの意見(パブリックコメント)を聞く機会も設けられています。食品安全委員会が「安全である」と判断した遺伝子組み換え食品は、その後、厚生労働省が食品衛生法に基づいて正式に承認します。
2. 環境への影響評価
日本国内で遺伝子組み換え作物を商業的に栽培する場合や、特定の用途(飼料など)で大量に輸入・流通させる場合には、環境への影響がないかも評価されます。この評価は、農林水産省と環境省が所管し、環境省が中心となって環境影響評価を行います。
評価の主なポイントは以下の通りです。
- 周辺の植物への影響: 遺伝子が自然界の植物に広がる可能性や、影響はないか。
- 生物多様性への影響: 昆虫や微生物など、生態系に悪影響はないか。
- 農作業を通じた拡散のリスク: 栽培や輸送の過程で種子が外部に漏れ出し、自然界で生育する可能性はないか。
環境省は、これらの点について科学的に評価し、問題がないと判断された場合に、カルタヘナ法(生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関する議定書)に基づいて承認を行います。日本国内では、商業栽培は原則として行われておらず、輸入された遺伝子組み換え作物が飼料や食品の原料として利用されることが主です。
承認後の管理について
一度承認された遺伝子組み換え作物についても、国は適切に管理を行っています。例えば、輸入される遺伝子組み換え作物が承認されたものと一致しているかを確認するための検査が行われたり、栽培が許可された場合(研究目的など)には、拡散防止措置が適切に行われているかを確認する検査などが行われています。
また、承認された食品については、特定の要件を満たす場合に、食品表示として「遺伝子組み換え」であることや「遺伝子組み換えでない」ことなどを表示する制度があり、消費者が情報を得るための仕組みが整えられています。(食品表示制度については、別の記事で詳しく解説しています。)
まとめ:多角的な視点と国の役割
遺伝子組み換え作物は、食料生産の効率化や特定の栄養強化など、様々な可能性を持っています。一方で、生態系への影響や長期的な健康影響に対する懸念など、様々な課題や議論があることも事実です。
日本の承認制度は、こうした遺伝子組み換え作物の利用にあたり、科学的な根拠に基づき、人の健康と環境の安全性を評価することを目的としています。食品安全委員会や環境省といった専門機関が、国際的な基準も参考にしながら厳格な審査を行っています。
この国の審査と承認の仕組みは、遺伝子組み換え作物が私たちの食卓に届くまでの大切なプロセスです。表示制度と合わせて、これらの仕組みを知ることは、私たち消費者が食品について理解し、自分自身の判断をする上で役立つでしょう。GMOフロンティアでは、今後も多角的な視点から遺伝子組み換え作物に関する情報を提供してまいります。